
「経営理念はある。でも、現場が同じ方向を向いているかと聞かれると、自信がない。」 地方の中小企業の経営者や経営幹部の方から、よく聞く言葉です。
経営理念、企業理念、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)。 どれも“会社の考え方”を表す言葉ですが、その役割の違いは意外と整理されていません。
言葉が整理されていないと、判断が揺れ、行動がそろわず、 「悪気はないのに、ズレが生まれる」状態が起こります。
ここでは、経営理念とMVVの違いを、なるべく身近な言葉と比喩で整理していきます。
経営理念は「会社の心持ち」を表す言葉
経営理念とは、「この会社は、どんな考え方を大切にしているのか」 を示す言葉です。人で言えば、性格や価値観、人生観のようなものに近いでしょう。
誠実さ、地域への思い、人を大切にする姿勢。 そうした“変わらない姿勢”を言葉にしたものが経営理念です。 理念は、会社の背骨になります。
どんなに環境が変わっても、「ここだけは大事にする」という軸を示します。
一方で、理念はどうしても抽象度が高くなります。
現場では 「理念は分かるけれど、この場面ではどう判断すればいいのか」 と迷いが生まれやすい。
理念は、方向を示す“想いの言葉”。 それ自体が悪いわけではありませんが、 日々の業務を動かすには、もう一段具体的な言葉が必要になります。
MVVは「日々の判断をそろえるための言葉」
MVVは、 組織の中で判断や行動をそろえるための言葉のセットです。
ミッションは「なぜこの会社は存在しているのか」、 ビジョンは「これからどこへ向かうのか」、 バリューは「そのために、どんな行動を大切にするのか」。
経営理念が“心持ち”だとすれば、 MVVは 「仕事をするときの基準」 です。たとえば、
- この仕事は引き受けるべきか
- どちらを優先すべきか
- その行動は会社らしいか
こうした場面で、 人によって答えが変わらないようにするための共通言語がMVVです。現場で「会社としては、こちらを選ぶ」と言える状態をつくる。 それがMVVの役割です。
たとえ話で考えると、理念とMVVの違いが見えやすい
経営理念とMVVの関係は、「旅の目的」と「地図」 に例えると分かりやすいかもしれません。
経営理念は、 「どんな旅にしたいか」「なぜ旅に出るのか」という目的です。一方、MVVは、 その目的地へ向かうための地図やルート、進み方のルールです。目的だけあっても、地図がなければ迷います。 地図だけあっても、目的がなければ進む意味を見失います。
理念とMVVは、どちらが上でも下でもなく、役割が違う言葉です。この違いを整理しないまま使うと、 「言葉はあるのに、組織がうまく動かない」状態が起こりやすくなります。
理念だけの組織で起こりがちなズレ
地方の中小企業では、 理念を大切にしてきたからこそ起こるズレがあります。 たとえば、
- 社長の判断は一貫しているが、部長ごとに解釈が違う
- 「人を大切に」と言いながら、現場判断がバラバラ
- 採用時に、何を基準に見ればいいか分からない
これは、理念が間違っているのではなく、理念を行動に翻訳する言葉が不足している状態です。MVVを整えることで、 「理念はそのままに、判断基準だけをそろえる」ことが可能になります。
理念を変える必要はありません。 むしろ、理念を守るためにMVVが必要になるケースも多いのです。
経営理念とMVVは、似ているようで役割が異なる言葉です。
経営理念は、会社の心持ちや姿勢を示すもの。MVVは、その心持ちをもとに、日々の判断と行動をそろえるための言葉。
理念があるからこそ、MVVが生きる。 MVVがあるからこそ、理念が現場まで届く。
言葉を増やすことが目的ではありません。 言葉を「使える状態」にすることが、組織を安定させます。
理念を大切にしてきた会社ほど、 MVVを整えることで、その良さが自然と伝わりやすくなるはずです。